ホーム > 企画情報 > Love Situation'21 > 第一回「夏の湖のボートの上で」
静止した時の中で
若林美紀
なんと美しい日だろう。熱く照りつける日の光も、湖畔の葉桜に程よく遮られ、優しい木漏れ日は、初夏のようなさわやかさを演出する。そよそよと流れる風の音と、時折聞こえる魚の跳ねる音。そっと風が通り抜けると、彼女が吊るした風鈴が静かに音をたてる。都会の喧騒から離れた、僕らだけの秘密の場所。僕と彼女は、桜の木に係留された小さなボートの上に仰向けに寝転がり、流れ行く雲をただ眺めている。胸のポケットにしまった懐中時計が、コチコチと時を刻む。特に何をするわけでもない、無為な時間。だが、そんな何でもない時間が、とても愛おしい。
暖かな日差しに誘われて、彼女は僕の傍らで、いつの間にか静かに寝息をたてている。その顔をもっと見たくて、僕はボートを揺らさないよう、そっと、そっと起き上がる。一度バランスを崩し、グラリとボートが揺れたが、彼女は目を覚ます気配も無く、すやすやと寝息をたてている。そんな何でもない、何気ない日常を共有出来ることが嬉しい。この何でもない日々が永久に続けば良い。世界中の時を止めて、この二人だけの空間を閉じ込めてしまいたくなる。胸のポケットの中で、懐中時計がコチコチと音をたてる。それが何とも憎たらしい。
ふと彼女が何かを思い出したかのように起き上がる。
―お腹すいたね
そういえば朝から何も口にしていない。
―何か食べに行こうか
そうか。終わりがあるからこそ、終わりまでの限り有る時間を楽しむことが出来るのだ。時間が無ければ、僕と彼女の世界が歴史として刻まれることも無い。この二人の世界も、時間があってこそのものなのだ。時間をかけて愛を紡ぎ、二人だけの歴史を刻んでいけば良い。
小林大陸
書評
- 愛場
- これは最初からっていうか、作者の名前を考えちゃうところから違う。
- 坂口
- 原稿用紙風に印刷していること自体があたしは嫌なの。この手の込み具合が大陸っぽくてヤダ。
- 愛場
- さいごに何か食べにいこうかの後、すごい時間について語るじゃん。ここがいただけないよね。
- 坂口
- 昭和のにおいがする。
- 愛場
- 悪くは無いと思うんだけど、なんかね・・・。
- 近藤
- 普段何を考えてるかわからないよね。
- 坂口
- 純粋なことばかり並べて、ほんとうは『そういうこと』ばっか考えてそう。書いてることはすごい純粋なことなんだけど、故意にやってる感じがする。
- 愛場
- これ大陸なのかな?だってこれ絶対チラリズムじゃん?彼の好きなチラリズムだよ。手を出したいけど出せないみたいな。後々を想像させる感じ。
- 坂口
- これが導入みたいな感じ?
- 愛場
- それに、やたら難しく書いてない?
- 坂口
- こういう風に言っておけば、あの人は安心するんじゃないかって(考えてるように)思っちゃう、あたしは。
- 愛場
- あ、そういう風に考えてるんだ。
- 近藤
- 下心みえみえかな。裏がありそうでヤダ。普通の人が言ってることと一緒。ただ君と一緒にいれればいい、とか言っときながら願望あるだろお前、みたいな。
- 愛場
- 文章としてはまとまってる感じがしない?
- 坂口
- うまいなとは思う。
- 愛場
- 時間がずっときてるわけでしょ?懐中時計とかでもって。
- 坂口
- その巧さが逆に嫌。
- 愛場
- 大陸だと思っちゃうとだめだね。最初のなんと美しい日だろうとか全部萌え系に見えるもん。
- 坂口
- あ、わかる。
- 愛場
- 湖畔の葉桜とかさぁ。
- 坂口
- 描写の仕方がね。
- 愛場
- そう。描写の仕方が萌え系だよね。
- 近藤
- 愛を紡ぎってのがいやだ。
- 坂口
- そうそう、嫌。愛を紡ぎってキモイよね。
- 愛場
- キモイ表現の仕方だよね。その表現の時点でアウト。
- 坂口
- 空想の日々を送っていそうだよね。生身の人間に接してなさそうな。とても愛おしい、これもヤだな。気持ちわるい。胸のポケットってのも官能っぽくてやじゃない?